群馬県みどり市——
渡良瀬川のほとりに、小さな木工場があります。
「わたらせ木工店」は、この町の空気と、水と、森の時間を編み込むように、ものづくりを続けています。
私たちが拠点とする“あずま町”は、かつて石材のまちとして栄えた土地。今では静かな住宅街と田畑が広がり、人と自然とがゆるやかに共存する風景が広がっています。けれどその足元には、今なお確かな資源が息づいています。森。川。土。
そのひとつが、「木」です。
・丸太から、暮らしへ。
わたしたちは、いわゆる“木工品製作所”の一歩手前から仕事を始めます。
それは、山から切り出された一本の丸太と出会うところから。
みどり市近郊で伐られた木を引き取り、皮を剥ぎ、割り、乾かし、製材し、板にし、磨き、削り、継ぎ、かたちにしていく。
すべての工程を自社で、敷地内の作業場でおこないます。まるで、木が川を下るように——一本の木が少しずつ形を変え、やがて誰かの暮らしのなかに溶け込んでいくのです。
量産ではなく、量感。
効率ではなく、縁や間。
地元の素材だからこそ、その木が育った土地の時間や風土ごと、丁寧に受け止めることができます。
・“地産材”という選択。
私たちが使っている木は、そのほとんどが地元・みどり市産。
ヒノキ、スギ、ミズナラ、クリ、サクラなど、この地域の山々で育った木を中心に使っています。ときには伐採現場まで足を運び、直接山の職人さんと顔を合わせ、一本一本の木の状態を見て決めることもあります。
加工や製品化に時間がかかっても、それが「資源のまち・みどり市」の可能性をひらく道になると信じています。
“都会に運ばれる前の素材”で終わらせず、ここでかたちにし、ここから届ける——それがわたしたちの挑戦であり、喜びでもあります。
・日々のなかの、ほんの少しの豊かさ。
作っているものは、家具よりも小さく、アクセサリーよりも実用的な、“暮らしの道具”です。
お箸やカトラリー、時計や名刺入れ、ヘラやキッチンツール、芳香剤や小さなインテリアなど。
素材の風合いや香りをいかしながら、手にしたときに、ふと自然に触れたような安心感をもたらすものづくりを目指しています。
また、加工の過程で出る端材やかんなくず、粉までも大切な素材として再利用しています。
森からもらった命を、できるだけ余すことなく、次の命につなぐ。
だからこそ、私たちの木工品には、ちょっとした「余白」や「におい」や「記憶」が、そっと忍ばせてあります。
わたしたちの願い
“地方創生”というと、少し堅苦しく聞こえるかもしれません。
でも、わたしたちは、ただ「川のほとりで木を削ること」を続けていたいのです。
そしてその姿が、少しでも誰かの“こんな暮らしもいいな”という気づきにつながっていけば、それはこの町の未来への一歩になると思っています。
自然の中で育った木が、人の手を経て、人の暮らしを支え、やがてまた土へ還っていく。
そんな循環の一端を、この町で、この工房から担っていけたら。
それが「わたらせ木工店」の、ささやかな、でも確かな願いです。