ポーチ　満州の夕焼けのもとで咲くむらさき花だいこんとさくら草

　満州からの引き揚げ者である父が2019年1月に亡くなってから、私はずっと満州のことを調べていました。というのも、父が私に「満州からの引き揚げの記録と満州で亡くなった母の墓参り旅行」と題した遺言を残していたから。この遺言が、父の記憶だけを頼りに書かれたものだったので、かなりいい加減で、でたらめで、しかも肝心なことが抜けていたりする厄介な代物で、「やれやれ、まったく」と言いながら、満州のことについて書かれた本や、第二次世界大戦のことについて書かれた本、戦時中の市民の暮らしなどが書かれた本を何十冊も読み、いろんな方に助けていただきながら、童話を書き、主人に解説を書いてもらい、小さな小冊子を自費出版し（非売品）、父の一周忌の時に、父の関係者や親族に配り、私や主人の知人友人にも配り、その結果バタバタっといろいろあって、やることが増え、無茶苦茶な日々を過ごしていたのですが、それは置いておいて、引き揚げ者の方々の書いた本を読むと、どの方も満州の夕焼けがとても綺麗だったと書かれているのです。父の記録にも、「夕焼けがとても綺麗だった」と書かれてあり、「いつか満州の夕焼けをバッグで表現できたらいいなぁ」と思っていたら、インカント（イタリー製）という糸（2023年新発売）を発見。実際の満州の夕焼けを私は見ていないので、想像ですが、満州がまだ平和だった頃、満州で暮らす人々を暖かく包んでいた夕焼けをどうしても表現したかったのです。この、インカントがまさにそれにピッタリでした。
　また、父は満州でも北の方に住んでいたのですが、父の記録では満州の冬は長く、冬の終わりに黄砂が降るそうなのですが、黄砂が春を告げるサインだったらしい。春になると、一斉に花が咲くそうで、福寿草に始まり、野ばら、あやめ、たんぽぽ、さくら草、キンポウゲ、百日草、ゆり、むらさき花だいこん、アツモリソウなどが咲き乱れ、秋の花も一緒に咲くそうで、シャクヤクや、スミレ、スズランなどと一緒に桔梗や、リンドウも咲いていたそうです（これは、父の記録には少しだけしか書いていなくて、ほぼほぼ他の方の本からの引用です）。その光景は言葉では言い表せないほど綺麗な光景だったそうです。まるで花の絨毯が敷かれているようだったと。そこで、「満州の夕焼けのもとで咲くむらさき花だいこんと、さくら草のお花畑のバッグを作ろう！」と。そのため、試し編みでポーチを編みました。それがこのポーチです。以前アップした、「むらさき花だいこんとさくら草（平和への願いを込めて）」のポーチとデザインはほぼほぼ同じですが、使用糸や、裏地、ファスナーが違います。
　父がいたのは、「開拓団」なので、生活も貧しく、子どもたちの遊ぶ道具も今みたいにそうそうあるわけでもなく、花摘みや、押し花を作るのも楽しかった遊びの一つだったとか。他にも、野原で、カモの卵を取りに行ったり、ウサギを罠にかけて捕まえたり、古着を丸めて縫ってもらいそれをボールに見立ててサッカーやドッジボールをしたそうです。子どもたちのおやつも、簡素なもの。お米をかまどで焼いた時にできるおこげや、ニンジンを丸ごと焼いて、皮をむいて食べるニンジンの丸焼き。焼き芋みたいな感覚かなぁ？これはとても甘くて美味しかったそうです。大福もちや、中国の人（当時は差別用語で「満人」と呼んでいた）が売りに来るマントウ（日本でいうと蒸しパンみたいなもの）や、森永のキャラメルなど。森永のキャラメルは太平洋戦争が始まると、一般向けの発売は中止されているので、父は多分食べていないだろうけど（父が渡満したのは太平洋戦争勃発後なので）、人気のおやつだったそうです。満州というと、悲惨な引き揚げのことがクローズアップされますが、平和な時もあったのです。その平和な時に夕焼けのもとで咲くお花畑で、遊ぶ子どもたちが連想されるイメージでこのポーチを製作しました。ウクライナをはじめ、地球上で戦争は起こっている。戦争は絶対いけない。弱い立場の子どもたちが犠牲になる世界ではいけないという平和への願いも込めています。また、この満州シリーズの「満州の晴れた空のもと咲く春の花畑」のペタンコでかバッグとポーチは、11月にアップします。乞うご期待！

中にエアクッションを詰めて撮影しています。

《使用糸》 インカント（イタリー製）
　　　　　　　ウール49％　コットン26％　ナイロン13％　アクリル8％　レーヨン4％
　　　　　スペクトルモデム　ウール100％　
　　　　　シェットランド（英国羊毛100％）
《裏地》 国産　綿麻混
《ファスナー》YKK 国産