指ぬき「ぬばたま」

幼い時阿蘇の外輪にある里に暮らしたことがあります。
周囲が山（火口の縁が山のようなので）に囲まれて市街地の明るさも届かないこともあって、月のない夜は真の闇。現在ではなかなか出会わない体験だったと思います。
目を開けているのか閉じているのかもわからなくなるくらい真っ暗でも、目が慣れると次第にその暗さにいろいろな色が含まれているのを感じることができました。

「ぬばたま」という言葉は黒髪を始め黒、夢など夜を連想させる枕詞ですが、もとはヒオウギという木の実のことを指す言葉です。
真っ黒な実は表面がツヤツヤで、玉虫色のように紫や藍色やうっすらと赤も混じるような深い色合いです。黒さの中にたくさんの色彩を封じ込めているようでとても美しいと思いました。
そして闇色が一色ではないと気づいた自分のように、きっと遠い昔に和歌を詠んだ人々も黒の中にさまざまな色合いを見ていたのではないかと感じて、少し嬉しくなりました。

黒の指ぬきをオーダーされた時、「闇のように黒い色で」と注文され、阿蘇の真の闇とぬばたまという言葉を思いだし、黒糸の間に藍を仕込んで刺してみました。ちょっと天邪鬼かしらとお叱りを予想していたのですが、大変喜んでいただけたので調子に乗って公開することにしました。
手指の大きな方や関節が太くなって前からのお道具が使いづらくなった方にもお勧めできる少々大きめのサイズです。

サイズ：内径約18㎜（内周は約59㎜）、外径約24㎜
＊サイズの調整をご希望の方はオーダーメイドにてお受けいたします。