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#24 oasis 渡邊薫(鍛鉄作家)

2013.07.04

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東京都町田に工房を構える渡邊薫さん。機械や工具、材料の鉄がずらりと並ぶ中
あちこちに隠れている鉄でできたトリや植物が温かく出迎えてくれます。
薫さんの工房の2階には、妻・杏子さんのジュエリー工房が。
ご夫婦でそれぞれ制作をされている薫さん・杏子さんのお二人にお話を伺いました。
(杏子さんのインタビューはこちら

薫さんのされているようなお仕事をなんと呼ぶのでしょう。

僕の仕事は鉄工所の中でも少し特殊な仕事かもしれません。英語ではロートアイアン、日本語では鍛鉄(たんてつ)や鍛造(たんぞう)と呼ばれています。鉄を熱して、熱いうちに叩いて形を作っていくというやり方で加工をします。日本というと木の文化ですが、鉄の文化といえばヨーロッパで、鍛鉄は古くからヨーロッパで発達してきた技術です。

どんなきっかけで鍛鉄のお仕事を始められたのですか。

東京デザイナー学院という専門学校があるのですが、高校卒業後にその中の金属工芸科というところに通っていたんです。金属を使ってものを作る学科です。陶芸などのコースもありましたが、金属加工は色々と設備が必要で、家で簡単にできるものではないので、どうせやるのならここでしかできないものを勉強しようと思って選びました。学校では鉄の他にも色々な金属を扱っていて、銅の板を使って鍋を作ったり、花器やペーパーナイフを作ったりね。実際にやってみると、ものができ上がってくるのはやっぱり楽しいものでした。
卒業後は、先生の紹介で大きな鉄工所に入ったんです。そこは普通の鉄工所とは少し違って、「装飾金物」という飾りのある金属製品の注文を受けて制作するという仕事がありました。駅前の大きなモニュメントとか、そういったすごく大きなものの注文が入ったりします。
10人から15人くらいの人が働いていて、工場では制作やお客さんの対応、事務所では図面引き、打ち合わせなど仕事の工程がいろいろあるんですが、役割分担はその時その時で「お前それやりたいならやれよ」という大雑把な感じでした。しばらく働いていると、みんな持ち場の作業はなんでも一通りできるようになっていましたね。

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独立しようと思われたのはどんなきっかけがあったのですか。

僕はその後金属加工の会社を3つ回ったんです。ステンレス、銅板の加工、と作るものも扱う金属の種類もひと通りやってみましたが、結局鍛鉄の仕事が一番面白かった。でも鍛鉄を専門にしている会社はそんなにないし、あっても雇ってもらえなかったりで、結構時間がかかったんです。最終的には鍛鉄専門の会社にたどり着いたのですが、その時にはもう自分でも色々できるようになっていたし、一人でやれるところまでやってみようと思って独立することにしました。もう14年前の話ですね。

どのように独立されたんでしょうか。

実家の敷地内に、物置小屋のようになっていた平屋のアパートがあったんですが、そこに最初の作業場を作りました。壁を抜いて、部屋2つ分を1つの空間にして使っていました。鍛鉄で作るものは、パーツを作って現場で組み立てるというものではないので、広い作業場が要るんですよね。
その作業場は独立するためではなくて、自分だけの作業場がほしくて会社に勤めている時に作ったもので、会社にいる間もそこで小さな作品を作って、デザインフェスタなどのイベントに仲間と出展したりしていました。独立後は、「今度独立するんです」と事前にお知らせしていた方から依頼をもらったり、先に独立していた友だちから仕事を回してもらったり、とやっているうちに人伝いで仕事が入ってきたりして、考えてみると仕事がない状態というのはそんなにありませんでした。
独立後1年半ほどそこでやっていましたが、仕事が増えてきて、広い空間が必要になってから今の工房に移ってきました。ここは元々トタンでできた簡単な倉庫で、移ってきてから防音材、耐熱材を入れたり、なるべく音漏れしないように自分で壁を貼ったり…と、時間をかけて少しずつ手を入れて整えてきました。鉄は音がうるさいですからね。今もまだあちこち手を入れています。
鉄を叩く台も、椅子も、ここにある道具はほとんど自分で作ったもので、少しずつ作り足してきました。この中で作っていないのは、溶接機の機械と作業台の上の部分だけですね。

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そもそも、どうして薫さんは鍛鉄だったのでしょう。

鉄という金属が、一番扱っていて面白いんですよね。
一般的に、金属加工で一番需要が多いのはステンレスなんです。駅の階段の手すりなどを想像してもらうといいと思いますが、色んな所に使われています。強度も強いし実用にも優れているし、見た目にも綺麗ですが、ただその分デザイン性に欠けるという部分があります。加工もなかなか自由にはいきません。
鍛鉄の加工は「叩く」が基本で、鉄が熱くなっているうちに素早く形を作っていきます。先を細くするのにも、丸くするにも、全部叩いて形を作っていくんです。この表面の一つ一つの凹凸が全てハンマーで叩いた跡です。鉄は転がせば丸くなるし、叩けば伸びる。ぎゅっと押すと潰れる。粘土みたいな素材なんですよね。銅も同じような部分はありますが、原価が高い。鉄は、安くて、いろんな加工ができて、銅より強度も強いんです。

お仕事はどんな形で入ってくるのですか。

僕の場合は建築関係の依頼が多く、注文は建築事務所やリフォーム屋さんを通じていただきます。家の門やポスト、階段の手すりなど、既成品のものでは少し物足りないから、取り替えてみようかなという感じでご依頼をいただく事が多いですね。
僕の方ではそのお宅やお庭を実際に見にいったりお客さんとお話したりして、その感じに合わせて「こういうものいかがですか」とスケッチをお見せしてみて、制作に入ります。

「お庭のポスト」「階段の手すり」といった形での注文は作るものの形が全く決まっていませんよね。作るものに合わせてデザインや強度を一から考えるというのは大変そうですね。

学校ではここまで細かいところまでは教えないし、最初に入った会社で基本的なことを全て教わったと思います。ミリ単位で作るのが当たり前の世界ですから。会社に入ってからは「道具としてきちんと機能を考えられたものを作る」のが仕事でしたが、それでも装飾金物屋だから、デザイン性にもこだわる。そういうことを会社でやっているうちに、作る技術も身についてきたし、作りたいものイメージもはっきりしてきたんでしょうね。

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薫さんのスケッチと、お客様の意向が咬み合わない時もあるのでしょうか。

「鋳物(金属を型に流して形を作る加工法)ですか」と聞かれることもあるくらい、今はまだ鍛鉄という世界自体があまり知られていないんですよね。だから受ける仕事も「お任せ」が多いんです。
スケッチをお見せしてみると「こんなものができるんだ!」と喜んで頂ける場合がほとんどですが、「これができるなら、こういうものもできる?」という声がお客さんから返ってくることもあります。そういうときは広がっていく感じがしてとても嬉しいですよ。
納品した先のお客さんが「こういうものを作ってもらった」と色んな方に紹介して下さって、そのお知り合いの方から依頼をいただくことも多く、お客さんのクチコミが営業の代わりになっています。一人でやっているので、営業のことを考えず作ることに集中できるというのはとてもありがたいことです。

お話を伺っていると楽しそうなことばかりですが、大変なことというのも勿論ありますよね。

新築の家の場合に多いんですが、納期が決まっていることですかね。こういう仕事は「完成した!」というはっきりした終わりはないので、もう2,3日あればもう少しここをよくできるんだけど、と考えることもよくあります。そういう悩みは会社にいた時は知りませんでした。工夫のしどころでもあって、悩みでもあるところですね。不思議なことに、仕事ってよく重なるんですよね。暇な時もあるんだけど、忙しいときに限って次が入ってきたりして、工場に泊まり込みで仕事をすることもときどきあります。

薫さんの作ったものを通して、「こういう感じを味わってほしい」というのを言葉にすると何でしょう。

僕がモチーフにしているのは、鳥や草花といった自然のものが多いのですが、自然を感じてもらいたい、ということは意識して作っています。
それから存在感ですね。なんというか、そこに当たり前にある空気を、少し変えるもの。そこに空気があることを意識し始めるようなものを作りたいと思っています。そういう意味では、花みたいなものかもしれません。食卓に花が少し飾られているだけで、その場の空気や雰囲気が変わりますよね。僕が出そうとしているのはそういう自然な存在感です。
例えばポストを作るのであれば、新聞を取りに行きたくなるようなポストであってほしいし、そんな風に使って楽しいと思うものが日常にもっと増えてほしい。だから、アートというよりは造園屋のような仕事だと思っていて、雑になっている庭を綺麗にして楽しんでもらうような感覚でいます。

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毎日の暮らしに「必要」であって、その上で「楽しさ」を与えてくれるものなんですね。「手すりが植物でもいいんじゃない?」「取っ手に鳥がいてもいいんじゃない?」と、薫さん自身がその可能性を楽しんで作られているのが伝わってきます。

僕が楽しんで作っていないと、作ったものもイキイキしたものにならないですよね。
学生の頃は彫刻とか、機能のない表現としての作品をよく作っていたんです。彫刻家になりたいと思っていた時代もありました。でも会社に入って、使うもの、機能のあるものを作っているうちに、そういうものを作る方が面白いと思っている自分に気づきました。一方で自分の中の独創性も表現したいという気持ちもあるから、独創性と機能という2つが合わさったら、世界に1つだけ、自分だけが作るものができるんじゃないかと思っています。

奥さま(杏子さん)と、お互いのお仕事に影響し合うところはありますか。

それはありますね。彼女の感覚が参考になることは多いです。鉄は黒い素材で仕上げもそのままのことが多かったのですが、彼女は明るい色のものが好きで、「白く塗ってみたら」という一言で色をつけることもあります。その逆も多分あって、彼女の作るものに僕が影響している部分もあると思います。
出会った頃は彼女がジュエリー作りをしたいと思っているということは全く知らなかったんですが、今は彼女もここの2階に作った作業場で、家事、育児の合間に制作をしています。まさかこんなふうに一緒にやるとは考えてもいませんでした。彼女もこんなふうに作業場が持てるとは思っていなかったんじゃないかな。

独立されて14年。今はどんなステップですか。

どんどん忙しくなっている、という段階です。まだまだこれからです。
今受けている仕事は、鍛鉄の仕事ばかりではなくて、既製品にあるような物の注文もたまにあるんです。でも僕は作りたい物を作りたいし、作っていて楽しいものをお客さんにも届けたい。
これまではクラフト系のイベントに出展するときは、本業じゃないというか、「こっちは趣味」という気持ちがあったんですが、今後はこれも仕事の一部として機能するようにしていきたいと思っています。「こういう世界があるんだ」ということをまず沢山の人に知ってもらわないと、「こういうものもできるかな」という発想にもつながらないですよね。鍛鉄の文化ごと、広めていけたらいいなと思っています。



渡邊薫

Kaoru Watanabe

1969年
  町田市でうまれる
1990年
  東京デザイナー学院 金属工芸科卒
1990年
  装飾建築金物NELSA-COBOに就職
1998年
  独立
2005年
  代官山 無垢里 個展 
2005年、2006年
  松本クラフトフェア出展
2007年
  古淵 ギャラリーヴェルジェ 個展
2009年
  結婚
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