#21 西加奈子さんインタビュー(小説家・絵本作家)

2013.01.23

photo

2004年に小説家としてデビューした西加奈子さん。ベストセラー「さくら」をはじめ多数の著作を持つ西さんですが、2006年出版の小説「きいろいゾウ」では、小説内に登場する絵本「きいろいゾウ」を実際にご自身で執筆。昨年2012年には、2作目の絵本となる「めだまとやぎ」も出版されました。
また、小説「きいろいゾウ」を原作として誕生した映画「きいろいゾウ」が、今年2013年2月2日より全国公開されます。今回はそんな西加奈子さんの絵本作家としての一面に注目し、お話を伺いました。

映画化のお話があった時はどんなお気持ちでしたか。

作品に注目してもらえるのはすごく嬉しいです。「きいろいゾウ」を書いた7年前は、ちょうどその頃に小説家としてやっていこうという決心をしたこともあった時期で、今回改めて自分の作品を振り返ってみて懐かしい気持ちにもなりました。 映画化をきっかけに原画展ができるようになったことも、自分の作品を見てもらえる場が広がったみたいで嬉しいし、とても楽しみにしています。
ただ、映画化されたからといって、元々ある私の作品がすごく良くなったとか価値が上がったとか、そういうことではないとは思っています。流行もそうだけど、沢山の人が注目することでその価値が変わっていくように見えることがある。でも実際はそうではない。ありのままを受け入れてもらった上で、面白いと思ってもらえたら嬉しいなと思います。

絵本「きいろいゾウ」と、小説「きいろいゾウ」は、どんな経緯を経てでき上がったのですか?

小説「きいろいゾウ」の作品の中で、主人公の女の子が小さい頃に読んでいた本として登場するのが絵本「きいろいゾウ」なんです。小説の中に、絵本「きいろいゾウ」の全文を掲載しています。
小説は2006年3月に出版したんですが、とても嬉しいことに、その後で小説の中だけのものだった絵本の方も実際に出版してもらえることになったんです。小説の中の絵本のストーリーをそのままに、それに絵を付けていく形で制作しました。

小説を書き進めている段階では、絵本をまさか後で出版することになるなんて思ってもいませんでした。絵本を登場させたはいいものの、はじめの頃は絵本の物語の展開について自分の中にはっきりしたイメージがあったわけではなかったんです。絵本のお話の行方がはっきりしないまま、小説も絵本も、同時進行で少しずつ書き進めていくという方法で書いていました。

そんなとき編集の方に、「この絵本のお話をまず完成させませんか」と言われたんです。絵本のお話が完成していないと、小説自体もぼんやりさせてしまう。絵本の全文を小説の中で使うかどうかは後で考えたらいいから、と。私も「確かに…」と納得して、絵本「きいろいゾウ」のお話をまず完成させました。
絵本のストーリーが完成すると、小説の向かおうとしているところも自分の中ではっきりしてきて、絵本の物語を小説の中に組み込みながら、小説もまた最初から修正していきました。
この絵本のお話があったから小説ができたし、小説があったから絵本が生まれてきたんです。

photophoto

小説の中で完成した絵本のストーリーに絵を付けていく形で絵本「きいろいゾウ」は描かれたんですね。私も読んだのですが、どのページも色がほんとうに鮮やかでした。ページから光が出ているような。

「きいろいゾウ」の中で一番最初に描いたのは、このページでした。
描いてみたいアフリカの景色があったんです。いわゆるサバンナには一度も行ったことがないんですけど、「こんな感じなんやろうな」と自分の中に浮かんでいた景色があって。絵本を描くことが決まったとき、まずこのページを完成させました。広い荒野一面に月の光が差している景色。その絵を仕上げてみたら、他のページのイメージもはっきりしてきました。

絵はクレヨンで描いているんですけど、このときはマニキュアも使いました。月の光がキラキラ輝いている感じを出したくて、夜空のところを上からラメ入りのマニキュアで塗ったんです。
原画の方は印刷されている絵本よりサイズが大きくて、クレヨンで塗りつぶすのもかなり体力のいる作業だったんですが、マニキュアはそれより更に大変でした。絵は大きいのにマニキュアは小さいから時間もかかるし、塗ってるうちに段々マニキュアのシンナーにやられて来るんですよね。でもこっちは必死だし、集中してる状態じゃないですか。それで余計に頭グワングワンしてきて。ふらふらになりながらやってましたね。

でも印刷するときにも、この原画の色の鮮やかさとか光が輝いている感じを伝えられるように、印刷屋さんがすごく頑張ってくれたんですよ。でき上がった絵本を見た時はすごく嬉しかったですね。

絵本というと子供の読みもの、というイメージがありますが、西さんにとってはどうですか。子供の頃の絵本のイメージの影響はありますか。

「子供の頃好きだった絵本は?」と聞かれることがよくあるんですが、小さい頃読んだもので今も覚えているものは、実は殆どないんですよね。
唯一記憶しているのは、「つきのぼうや」という縦に細長い絵本です。でも内容は覚えていなくて、ページの下の方に家があって山があって、そのずーっと上の方に月が光っていて。その光景だけははっきりイメージに残っていました。
でも子供の頃の記憶では、その本はすごく縦に長くて、もう体全体でページをめくっていたようなイメージだったんですよ。でも大人になって再会してみたら、確かに長いけど、昔の記憶よりは遥かに小さくて。「こんなもんやったんや!」と拍子抜けしましたね。

絵本を描きはじめた頃は「絵本ってこういうもの」というイメージを持って描いてみたこともありましたが、そうすると自分でも面白くないんですよね。
「あれ、こういうものが描きたかったんかな…」と何が描きたいのかも曖昧になってきてしまって。そこが自分で分からなかったら、人に伝わるはずはないですよね。
私は「子供に何かを伝えたい」という目的で絵本を描いているわけではないから、描きながらそういうことを考えたらだめみたいです。小説を書くときも絵本を描くときもそうだけど、自分が書きたいものをちゃんと形にすることに集中します。そのことだけに全力で向き合う。
絵を描くときには、頭のなかにあるイメージをその通りの形や色にできているかを考えているし、物語を書くときも、この単語は子供に分かるかとか、漢字読めるかとか、そういう気の使い方はしないです。小説を書くときもそれは変わらなくて、読者を想定してから書くものを考えることはないですね。

photophoto

昨年12月に出版された西さんの二作目の絵本「めだまとヤギ」は、確かにすごく自由で、のびのびしたお話だな、と感じました。シュールさも面白くて。

「めだまとヤギ」は、たまに遊びに行く渋谷のカフェで飼われているヤギがいて、その二頭をモデルに描いたお話です。
ヤギって、近くで見るとびっくりするくらい可愛くないんですよね。目もどこ見ているかもよく分からないし、何を考えてるかも全然分からない。でもそれって、逆だってそうかもしれないよな、と思って。ヤギにしてみれば、人間の方がよっぽど変な生き物みたいに見えているかもしれないし、人間の目もヤギにしてみれば気持ち悪いかもしれない。それは分からないですよね。ヤギと喋れないから。それで、この絵本ではヤギの目線でお話を書きました。

大きなお話の流れとは別に、開くたびに新しく動物が出てきたり、色んな土地がバーンと出てくるのが新鮮ですね。

二頭のヤギが、飼い主のおじいさんの目玉を探す旅に出るんです。ページを開くたびに、読む人がその場所に行った気分になったらいいなと思って、色んな土地を描きました。
それから、白ヤギさんと黒ヤギさんが、お手紙を食べちゃう歌がありますよね。二頭がお手紙を挟んで向かい合っている状況が面白いなと思ってたんですけど、それも描くことができました。それで装丁も、エアメールみたいなカバーを付けて、お手紙みたいな形にしてもらいました。
この前、この絵本を子供に読んでもらったことがあって、どんな反応するんかな、って気になって見てたんですよ。そしたら、ヤギが歩きながらポロポロうんこしてるところを見つけて「ぎゃー、うんこしてるー! きたないー」なんて言いながらキャッキャ喜んだりしていて。
私もそこ、描くときに自分でも面白がりながら描いてるんですよね。それを見た時は「はっ。通じた!」と思って嬉しかったですね。

絵を描くことをすごく楽しんでいらっしゃるんですね。小さい頃から絵を書くのが好きだったんですか?

昔から絵を描くのは好きでしたね。小さい頃は、いつも一緒に遊んでいた仲良しの女の子と「お互い、思いつく限りの一番恐ろしいものを描こう!」なんてテーマを決めてそれぞれ書いたものを見せあいこしたりしていました。いつも二人で変な遊びを作って遊んでいましたね。
今でも、趣味としてよく描いています。友達のお店に飾ってもらったりもして。いつもクレヨンを使って描くんです。私はすごく筆圧が強くて、クレヨンはそれに耐えてくれるんですよね。絵を塗りつぶしていると、何も考えない、無心の状態になるから、小説を書く合間の気分転換にもなっています。
最近は好きな絵画を、クレヨンで模写するのも楽しいですね。富嶽三十六景とか、クリムトの絵とか、模写していると、はっと気づいて驚くことがいっぱいあるんですよ。「ここにその色を持ってくるんや!」とか、「この構図すごい!」とか。
西加奈子さんのギャラリーページへ

小説を書く合間に絵を描かれるんですね。表現方法として、文章と絵はどんな風に違うんでしょうか?

文章を書くこととは違って、絵は表現の方法がすごく直接的というか、ダイレクトなんですよね。頭の中で思い浮かべているものをそのまま形にしていくし、描いているものがイメージ通りかどうか、常に同時に目に見えてる。だから何も考えなくていい。無心になれるし、描いていても苦しくなることもないんですよね。解放されているというか。
文章を書くことは、絵より縛りが多いですね。頭のなかのイメージを文字にしてみて、その表現がどんなふうに読めるかを確かめながら書いていかなくてはいけない。
どうしてもかっこ良く書きたいと思ってしまうから、難しい言葉を使ってしまったり、凝った表現をしてしまったりして、でも後から読んでみたらその部分が浮くんですよね。 それをしないように自分を抑えながら、分かりやすく、自分の言葉で書かなくてはいけない。その制限がある分、書くのが苦しくなったり、行き詰まることも多い。
でも、今後絵を描くことが私にとって仕事になってきたら、状況が変わってくるかもしれません。悩んだり、乗り越えたりしなくてはいけないことが色々と出てくるかもしれない。今はまだその段階には入っていないから、分からないですね。

photophoto

絵を描かれるときと小説を描かれるときは、仕事場は使い分けているんですか。 それぞれ取材で書きたい場所を見て回られたりもするんでしょうか。

絵も小説も、仕事部屋の机で書いています。 絵本でも、アフリカとかヨーロッパとか、各地の土地の風景を描いているけど、小説や絵本の取材のために旅行をすることは全然ないんです。書くときはいつも仕事部屋だけで完結しています。
旅行自体があまり得意ではなくて、行ったら絶対楽しいって分かっていても、次々心配ごとが出てきて、行く前にすごく憂鬱になってしまうんですよ。
スリに遭ったらどうしよう、寝坊して乗り遅れたらどうしよう…って、怖くなる。でも実際に行くと、目の前のもの全てに夢中になって、すごく興奮して楽しくて、感激して、また絶対行こう、と思うんですよね。

取材をされない西さんが描くものは、どこからイメージがやって来ているんですか。

私の描くものは「こんなだったらいいな」という、私の中にある理想の光景なんです。
絵本の「きいろいゾウ」の光景も同じで、ゾウの群れってこんな感じだったらいいな。夕日はきっとこんな色になるんだろうな。ピラミッドの上に腰掛けてそれが見れたら素敵だな、と想像して、それを絵にします。
自分自身、旅行があまり得意じゃないのもあるからこそ、絵本の中では自分の中にある色んな世界を見せたいし、描きたい、という思いもあります。読んだ人が、絵本に出てくる土地を旅した気分になってもらえたら嬉しいですよね。

photophoto

一人で机に向かっているのは孤独ではないですか?

書きたいものは常にあるし、孤独という感覚はあまりないです。小説に行き詰まったら絵を書いたり、絵を描いていたらまた小説の続きが浮かんだり。それをずっと繰り返していても全く苦じゃないです。実際に作品を世の中に出すまで、沢山の方が関わってくれているし、一人で作っているという感じはしないです。編集さんも印刷屋さんも書店の方にも、いつも協力してもらいながら作品を作っていて、ほんまになんて幸せなんやろう、と思います。
あと、私は「見て見てちゃん」なんですよね。自己顕示欲の塊というか。書きたいものが常にあるし、書いたら「こんなの書いたよ」と人に見てほしい。自分の書きたいものを描いていられるなんて、そしてそれを待っていてくれる人がいるなんて、こんなに贅沢なことはないですよね。

今後のご活動について聞かせてください。

3月26日から、浜松にある写真家の若木信吾さんのお店「BOOKS&PRINTS」で、絵の個展をさせていただきます。
もう描くものは決めているんだけど、詳細については、まだ秘密です。小説を書くことを仕事にできていてとても幸せだし、これからも常に、一生懸命書いていきたいです。いつも支えてくれている方達にも恩返しがしたいです。そして、今年は絵ももっともっと描きたいですね。



映画公開記念「きいろいゾウ」原画展
絵本「きいろいゾウ」の原画展がロゴスギャラリー(渋谷パルコ パート1 B1F)にて開催されます。
西加奈子さんが選んだ、総勢14名のiichiの作り手の作品もずらりと並びます。
是非足をお運び下さい。
渋谷PARCO LOGOSギャラリー 展示販売会
会期:2013年 1月24日(木)~ 2月4日(月)
営業時間:10:00 ~ 21:00 (最終日は17:00まで)
開催スペース:渋谷パルコ パート1 B1F LOGOSギャラリー
http://www.iichi.com/x/kiiroizou

会期:2013年 1月24日(木)~ 2月4日(月)
営業時間:10:00 ~ 21:00 (最終日は17:00まで)
開催スペース:渋谷パルコ パート1 B1F LOGOSギャラリー


映画「きいろいゾウ」
2月2日(土)より、新宿ピカデリーほか全国ロードショーで公開されます。
原作:西加奈子「きいろいゾウ」(小学館刊)
監督:廣木隆一
出演:宮﨑あおい/向井理/柄本明/濱田龍臣/本田望結ほか
   (c)2013西加奈子・小学館/「きいろいゾウ」製作委員会
配給:ショウゲート


西加奈子

Kanako Nishi

西加奈子(にし・かなこ)
1977年、イラン・テヘラン市生まれ。大阪育ち。
2004年に「あおい」(小学館刊)でデビュー。05年に刊行された「さくら」(小学館刊)が、本屋大賞のノミネート作に選ばれ、単行本・文庫併せた累計が40万部を超えるベストセラーとなる。
「きいろいゾウ」は、06年3月に小学館より単行本として発売となり、8月には「絵本 きいろいゾウ」も刊行、以降、ロングセラーを続けている。
他の作品には、織田作之助賞を受賞した「通天閣」(06/筑摩書房刊)、「こうふくみどりの」(08/小学館刊)「こうふくあかの」(08/小学館刊)「円卓」(11/文芸春秋刊)「漁港の肉子ちゃん」(11/幻冬舎刊)など著書多数。
「ふくわらい」(12/朝日新聞出版刊)が第148回直木三十五賞、2013年の「本屋大賞」にそれぞれノミネートされた。
このページのTOPへ

パスワードを忘れた方はこちら

ログインできない場合はこちら

携帯のメールアドレスにて登録される場合は、
ドメイン iichi.com より受信できるよう、
メール設定の見直しをお願いします。ドメイン指定受信について
iichiの利用規約およびプライバシーポリシーをお読みいただき、
同意される方のみ「同意して会員登録する」ボタンを押してください。