カップ酒リデザインプロジェクト | ハンドメイド作品の購入・販売 "iichi"
 カップ酒は、容器(パッケージ)と杯(グラス)を一体化させた非常にイノベーティブなもの。持ち運びが簡単、外出先でも開封してすぐに飲むことができ楽しめます。カップ酒の良さは低価格で日常的に気軽に楽しめるところ。
 しかしながら、一方ではそれゆえ利用者を限定してしまっている可能性もあるのではないか、現在の生活の中でカップ酒が喜ばれる新たなシーンを「器のデザイン」視点から創りだしてみたいという考えから、デザイナーの平野光太郎を中心に本プロジェクトはスタートしました。新しいカップ酒を器づくりから考える、名付けて「カップ酒リデザインプロジェクト」です。
 カップ酒のグラスを、デザイナー平野光太郎とガラス工芸の技術を持つガラス作家・職人の方々との共同制作により既製グラスをベースにリデザイン。また、酒造メーカー様のご協力により、本プロジェクト向けに特別なお酒をご用意頂く予定です。新たなカップ酒の企画制作ならびに商品化に向けた取り組みをご紹介いたします。

平野 光太郎

デザイナー/クリエイティブディレクター

1971年生まれ。1996年東京芸術大学美術学部デザイン科卒業後、株式会社博報堂入社。広告表現のアートディレクション/グラフィックデザインを中心に、キャラクターデザイン、シンボルマーク/企業CI制作、CDジャケットデザイン、ブックデザイン、TVCF企画など幅広い分野で活躍中。2005年ADC賞、グッドデザイン賞など、多数受賞。

3.完成

七本鎗 カップ酒 完成品

製作に協力してくださった二人のガラス職人・作家さんとの出会いから、一年がかりで加工の方法とデザインをスクラップアンドビルドしながら完成させました。天文年間の創業、北大路魯山人との逸話など近江の酒造りを取り巻く豊かな文化はインスピレーションの宝庫。様々なガラス工芸の技法を組み合わせ、酒と歴史に負けないように製作しました。

二種類のデザインそれぞれに、切り子やサンドブラストなど手作業でしかできない加工を施しました。それは瓶底など通常では表現しない部分にまで及び、大量生産ではなかなか難しい繊細で複雑なデザインを実現しています。外箱には湿度の変化に強いとされている桐箱を使用。繊細な酒と瓶をしっかりと守ります。ラベルには落款をイメージし、オリジナルデザインを和紙に押印したデザインを使用。これは、それぞれの瓶のデザインと酒の銘柄を組み合わせて表現したアイコンになっており、伝統的な酒とガラス工芸の出会いから新しいモノが生み出された、今回のプロジェクトを象徴するものです。さらにカップ酒のアルミ製の蓋には一個一個ユニークナンバーを刻印。限定生産の今回ならでは、のエビデンスとなっています。
完成写真
完成写真

七本鎗 Type-A

「賤ヶ岳の七本鎗」とうたわれた勇壮な武将たち。その七本鎗の銘柄、紋章を大胆に再構成しました。瓶をぐるりと取り囲む七本の鎗の意匠は、サンドブラストの彫刻とエッジの立った切り子の組み合わせになっています。まさに鎗のイメージをそのままに、飲み口に近い部分の繊細な触覚をサンドブラストで、手に持ったときの鋭角な触覚を切り子で表現しました。たおやかに弧を描きながら飲み口に伸びて行く切り子のラインは、「曲面に曲線を描く」ということであり、熟練した職人でないと加工の難しいものです。瓶底はマットな質感になるように荒い磨きを加え、側面の鋭利な鎗の意匠を際立たせるように工夫しています。これら大胆な深い切り子のラインが、七本鎗の酒作り、米のうまみをしっかりと醸した力強さを表現しています。
完成写真

七本鎗 Type-B

七本鎗の紋章、イメージを、モダンな七本のラインに再構成しました。折り目を正したシンプルな横のラインは、切り子によるもの。鎗のイメージにオーバーラッップするように力強いものですが、見る角度によって多重の輪となり、柔らかな表情も見せてくれます。シャープなラインを際立たせるように瓶の側面から底似かけてのラインを斜め一直線に削り、瓶の立ち上がりを力強いものにしています。また、シンプルなデザインだけに、瓶生地の型の合わせ目をしっかりと磨くなど、直線を綺麗に見せるための細かい作業を下地に加えています。瓶底はしっかりと磨きを加えたものに丸い切り子をいれ、さらにレンズ状に磨きを入れた贅沢なつくりです。手に取ったときの鋭利な感覚が銘柄のイメージに重なります。

3.完成

あさ開 カップ酒 完成品

 製作に協力してくださった二人のガラス作家・職人の方々との出会いから、一年がかりで加工の方法とデザインをスクラップアンドビルドしながら完成させました。 岩手の豊かな大地に育まれた米と、豊かなわき水で醸されたあさ開の酒をイメージし、様々なガラス工芸の技法を組み合わせて表現した贅沢なつくりとなっています。

 三種類のデザインそれぞれに、切り子やサンドブラスト、グルーチップなど手作業でしかできない加工を施しました。それは瓶底など通常では表現しない部分にまで及び、 大量生産ではなかなか難しい繊細で複雑なデザインを実現しています。外箱には湿度の変化に強いとされている桐箱を使用。繊細な酒と瓶をしっかりと守ります。 ラベルには落款をイメージし、オリジナルデザインを和紙に押印したデザインを使用しています。これは、それぞれの瓶のデザインと酒の銘柄を組み合わせて表現したアイコンになっており、 伝統的な酒とガラス工芸の出会いから新しいモノが生み出された、今回のプロジェクトを象徴するものです。さらにパッケージの桐箱には一つ一つにユニークナンバーを刻印。 限定生産の今回ならではのエビデンスとなっています。
完成写真
完成写真

あさ開 Type-A

東北の降り積もる雪をイメージし、丸い切り子を配したデザインです。磨き加工を加えた切り子と、磨りガラスのマットな質感の切り子をちりばめました。磨きを加えた丸い切り子からはレンズの効果で向こう側の切り子がキラキラと散りばめられたように見えます。カップ酒特有の飲み口の形状から、加工できる範囲や道具が限られてしまう中、切り子職人である澤口さんの巧みな技術で、全面に丸い切り子を配置し、キラキラと輝く雪のイメージを表現することができました。また瓶底にもマットな質感の磨きを加えた上に、さらに丸い切り子を加工して磨く、という手間のかかる加工を施しています。飲むときに向こう側の景色が小さなレンズに集約されてキラキラと輝きます。グラスを見て楽しみ、酒を飲んで味を楽しみ、さらに飲む時の景色も楽しめるようにと考えたデザインです。
完成写真

あさ開 Type-B

丸い切り子がゆったりと集まり、そしてランダムに散らばっていきます。盛岡の柔らかい水質の「雪解け水」を表現しました。ベースとなる瓶の生地に、「サンドブラスト」加工で磨りガラスの質感を与えています。文字通り高圧で砂を吹き付けるこの加工は、砂の荒さによって様々な手触りを与えることが可能。今回はその中でも、やや荒めの砂を選択し、しっとりとした手触りを表現するようにデザインしています。瓶を持った感触をデザインに取り入れるために、サンドブラストは吉田さんに、切り子は澤口さんにそれぞれ加工をお願いし、それぞれの持ち味を引き出しました。丸い切り子は磨いたものとマットな質感を生かしたものを配置。そういう意味でも非常に手間のかかったものになっています。しっとりとした空間の中、丸い切り子がランダムに舞う姿をゆったりとした酔いの中で楽しんでいただけたらと思います。
完成写真

あさ開 Type-C

清冽な水と氷をイメージしたデザインを全面に施しました。これは「グルーチップ」という加工法を用い、実現したものです。サンドブラストした瓶生地にニカワを塗り、炉の中で乾燥させました。乾燥とともに、強い力で収縮するニカワによってガラスの表面が薄く剥ぎ取られます。こうしてできた独特の模様は、二つとないオリジナルなものとなります。加工していただいた吉田さんの技術で、大きい見え方としては均一に加工されつつ、細かくは瓶一つ一つ、それぞれ違うデザインとなっています。吉田さんによれば「グルーチップ」という加工法はガラス工芸の世界では珍しい技法ではないとのこと。しかし一般にはほとんど知られていないと思われるこの技術との出会いは、ガラス加工とそこにまつわる技術の奥深さを知ったきっかけともなりました。二つとない自分だけのカップ酒を手に、職人技の奥深さに思いを馳せる…そんな思いを込めています。

2.お酒について

制作したカップ酒グラスに封入するお酒には酒蔵様よりそれぞれ特別なお酒をご用意頂くことができました。ご協力頂きましたのは岩手県盛岡市の酒蔵「あさ開」と滋賀県長浜市の酒蔵「冨田酒造」です。
それぞれの酒蔵の歴史、作られているお酒の特徴、酒造りに対する思い、そして本プロジェクトに対する考えについてのお話を伺いました。
あさ開
株式会社 あさ開

創業:明治4年(1871年)
所在地:
岩手県盛岡市大慈寺町10番34号

http://www.asabiraki-net.jp

≫ 酒造インタビュー#1
七本鎗
冨田酒造有限会社

所在地:
滋賀県長浜市木之本町木之本1107

http://www.7yari.co.jp

※5/20公開予定

酒蔵インタビュー #2

冨田酒造 冨田泰伸さん

滋賀県木之本の酒蔵「冨田酒造」。冨田酒造の歴史は古く、創業は天文年間、450年以上続く酒蔵です。冨田酒造の代表的な銘柄である「七本鎗」。秀吉を天下人へと導いた七人の若武者「賤ヶ岳の七本鎗」にちなんだもので、「勝利の酒」というおめでたい意味があります。今回は15代目蔵元である冨田泰伸さんにお話を伺いました。
―― 冨田酒造さんのお酒の特徴について教えてください。
僕たちのお酒は「淡麗辛口」や「華やか系」と言われるものの反対側に位置していると思っています。米の旨味がしっかりあって、香りが穏やかなタイプの酒造りをしています。酒だけでサラサラと楽しむというよりは、飲みごたえがあって、食事と一緒に楽しんで頂けるお酒です。
―― 冨田酒造さんには長い歴史がありますが、お酒の造り方は変化してきたのですか。
時代とともに日本酒の製造技術が飛躍的に上がっていることもあり、お酒はどんどん変わってきています。例えば精米技術。昔は精米技術が低かったので、大吟醸などのお酒はありませんでした。昭和に入り精米技術が向上し大吟醸とかが多く造られるようになったのはずっと後、昭和50年代ぐらいからではないでしょうか。ちなみに当蔵では平成に入ってから吟醸酒を造り始めました。
また、冨田酒造としてもお酒の造り方は変わってきています。以前までの酒蔵は、杜氏は製造の責任者、蔵元は経営の責任者であることが普通でしたが、現在は蔵元である僕が製造責任の役割も担っています。職人に関しても、日本酒の製造は冬に行われるので冬季出稼ぎとして働いてもらうケースが多かったのですが、今では社員として通年で働いてもらっています。酒造りをしない夏には、試飲会などでの販売や営業の仕事をしてもらっています。造って終わりではなく、年間を通して自分たちが造っている酒に関わることが、その次の年の酒造りに生きてくると信じています。
―― 現在はどのようなお酒造りをしていらっしゃるのでしょうか。
僕たちは滋賀で酒造りをしていて、「地のもの」であることにこだわりを持っています。例えば水。酒蔵のある木之本という土地は賤ヶ岳山麓に位置し、水が綺麗なことで有名です。三味線の糸(弦)は、水の綺麗なところで作るのが適しており、有名な沖縄の三線の糸なども木之本で作られています。その木之本の蔵内の井戸水を、きちんと水質を確かめた上で無濾過で、生活用水、そして醸造用水として使っています。小さい頃からそんな地元の水に慣れ親しんでいましたので、僕がはじめて地元を出て、定食屋で食事をした時、味噌汁がカルキ臭くて食べれなかったのを覚えています。
また、お米ももちろん滋賀のものを使っています。冨田酒造で主に使っているのは玉栄です。こちらは滋賀県の品種で、旨味のしっかりとした個性的なお酒を造ることができます。他にも数種類のお米を使っているのですが、やはりお客様からの評価が高いのは玉栄で造られた酒です。
もう一つお米にはこだわりがあって、僕たちは酒造りに使うお米を単一品種で使用しブレンドしません。酒を造る際に使う米には麹米・掛米という2つがありますが、冨田酒造では麹米・掛米ともに同じお米で造っていますので、その品種の味を十分に楽しめると思っています。
酒造りで有名なお米、山田錦も一部の商品には使っていますが、兵庫の山田錦ではなく滋賀の山田錦で造っています。兵庫のようなクリア感はありませんが、やはりいい酒が出来ますね。滋賀のお米、滋賀の水、そして滋賀の環境で、滋賀発の酒造りをしているのが僕たちの一番の特徴です。
―― その地の素材のみでお酒を造るのは珍しいことと聞きますが、冨田さんはどのようにして地のものだけを用いた酒造りにたどり着いたのでしょうか。
10年ほど前、酒造りの勉強のため1ヶ月半ほどフランスを回ったことがあります。その時ブルゴーニュワインの産地の町で見た景色、自分たちの土地でぶどうを作っている作り手、そしてその地酒を自分たちの町のものとして誇りを持っている近辺住民の姿がとても格好よく、感銘を受けました。ブルゴーニュのワインも基本的には単一品種のブドウで作られているのですが、その点でも学ぶことが多くありました。
日本酒は日本全国ほとんどの県で造られていて、その土地の特色が強く出るものです。土地が変われば酒も変わる、こんなに面白いことはないと思っています。だからこそ、その土地ならではの味わいを楽しめるようであってほしいと思っていますし、飲み手の思いに受け答えられるような酒造りをしていきたいです。もちろん地酒であっても、最高のお酒を追求すれば、水や米が他所のものになったりすることはあります。ですが、幸いなことに滋賀にはそのどちらとも揃っていました。
―― 今回のカップ酒リデザインプロジェクトに封入するのはどのようなお酒でしょうか。
今回封入するお酒は、純米大吟醸の雫酒です。お酒と酒粕に分離される前の段階である「もろみ」を搾る際に、通常は搾り器にお酒を注入して圧力をかけるのですが、雫酒はもろみを綿の袋に入れてそれを吊るします。そうしてポタポタ垂れてくるお酒を受けて、素早く瓶詰めされたものが雫酒です。雫を受け取る瓶のことを斗瓶と呼ぶので、斗瓶取りとも呼ばれます。
通常の圧力をかける製法と違い、雫酒はより表層の綺麗な部分だけを取っていることになります。一つの綿袋から雫を取り始めて、最初のうちは30分程、終わりの頃になると3時間程かかります。あまり長く空気中に晒していると酸化しますので、その前に搾り器にまわします。
雫酒のおすすめの飲み方は、冨田酒造の他のお酒同様、食中です。大吟醸ですが旨味がしっかりしているので、焼き魚とでも、お刺身とでも美味しく飲んで頂けると思います。お刺身の場合は淡白な白身よりは赤身やひかりもの。天ぷらなどもよくあいますね。
―― ガラス作家、職人との合作になる今回のプロジェクトはいかがでしたか。
日本酒業界もそうですが、異業種の伝統産業も衰退していっているとよく耳にしています。そのような今、互いの良いところを組み合わせて発信していったほうがいいと思っています。
そのような意味で今回のプロジェクトは双方にとって良いものだと思います。作るものは違えど、「もの作り」という意味ではつながっている人たちと、これまでにない新しい形で発信できるのはとても嬉しいことです。今まで触れ合う機会がなかった人たちが、このプロジェクトをきっかけに冨田酒造、七本鎗のことを知ってくれる。そんな出会いのきっかけが広がっていくのを期待しています。

酒蔵インタビュー #1

あさ開 藤田雅彦さん、駒井素子さん

岩手県盛岡市大慈寺町にある酒蔵「あさ開」(あさびらき)。1871年に創業し、年に一度開催される全国新酒鑑評会では21年連続入賞(内17回金賞受賞)している、伝統と品質を誇る酒蔵です。今回はあさ開本社営業部 藤田雅彦さん、駒井素子さんにお話を伺いました。
―― あさ開設立の歴史について教えてください。
あさ開の歴史は古く、1871年、南部藩士だった七代目・村井源三が侍を辞めた後で立ち上げた酒蔵です。1871年といえば大政奉還から4年後にあたり、「四民平等」のもとで士農工商の身分が撤廃され、多くの侍に職がなくなった時代でした。 社名にもなっている「あさ開」という言葉は、「漕ぎ出る」にかかる枕詞です。万葉集の中に、歌聖・柿本人麻呂の「朝開き漕ぎ出て来れば武庫の浦の潮干の潟に鶴が声すも」という和歌があります。夜が明けて朝が開いた。さあ船を漕ぎ出でよう、という意味の歌ですが、侍から商人として再出発を志し、登る陽を自分と照らしあわせて「あさ開」という社名を付けたのかもしれません。
―― 長い歴史があるのですね。あさ開がお酒を作り販売していく上で大切にしていることはどのようなことでしょうか。
岩手の食を通じて地域の未来に貢献する、というのが経営理念の柱となっています。飲む方も消費量も減っていっている日本酒の世界ですが、そんな中で私達に何ができるだろうと考えたことの答えが、お客さまとのコミュニケーションで日本一を目指すということでした。 そのために心がけているのがICEの実践です。ICEとは、《I:Information お客様に自分たちのことをお知らせすること》《C:communication お客様と交流すること》《E:education お伝えして理解してもらうこと》。 販売店やレストラン、インターネット販売、営業等での振舞い方や接し方についても一つ一つがコミュニケーションの一環だと思っています。お客様との接点を増やすために、酒蔵の見学や試飲販売会も行っています。社員が自分の特性を生かしてFacebookページなどを盛り上げてくれているのも嬉しいことです。
―― あさ開さんには、お酒の種類はどのくらいあるのでしょうか。
基本銘柄は20種類ほどで、それが全体のシェアの殆どを占めています。しかし、ひとつの種類から実は何パターンものお酒を作ることができます。出来立ての生生、一回火入れをした生貯蔵、秋口まで寝かせた冷やおろし、完全に火入れをした通常のものなど。その他にも派生商品がたくさんあり、現在全体で200種類ほどあります。本当は一つのお酒を作り続けるほうが楽ではあるのですが、それぞれの好みをお持ちのお客様の期待に応えるため、色々なタイプの酒を作っています。
―― 藤田さん、駒井さんは全てのお酒を事前に確認するのでしょうか。
全ての味をテイスティングするのは杜氏(とうじ―酒蔵の製造責任者)の藤尾のみですが、基本銘柄や特徴のあるもの、季節感のあるものは事前に飲みます。外でもあさ開の酒を飲む機会が多いのですが、飲むとすぐに分かります。藤尾の作る酒には特徴があって、香りが豊かなんです。また、あさ開の酒は軟水を使っているので口当たりがとても軽く、口にした瞬間にふわりと広がります。
―― 水によって口当たりの特徴が変わるんですね。やはりそれぞれ味の違いがあるのでしょうか?
近所に3蔵ほどありますが、水質も違いますし勿論味も違います。酒は80%強が水からできているため、酒の味も水が占める割合が多いです。水が軟らかいと口当たりのいいお酒ができますし、水が硬いとバシッとキレのあるお酒が出来ます。日本酒に詳しい方は、水の味から出来上がるお酒の味を想像することが出来るようです。
―― あさ開の酒造りの特徴を教えていただけますか。
衛生的にクリーンな環境で、データによって制御して緻密に作るというのが杜氏の藤尾のポリシーです。 データによって制御、と説明すると、機械に頼ってオートメーションで作ったお酒のように思われることもありますが、そのデータはこれまで40年以上の時間をかけて集めた藤尾だけのデータです。藤尾はその日その日の酒の状況を毎日ノートに付けており、例えばこの日に何℃になり、アルコールが何%まで発酵するべき、といったところまで、これまでの経験を元に酒の状態を細かく管理しています。発酵が達していなければ温めて発酵を促しますし、発酵しすぎていたら冷やします。 お米を洗うときには、その日の気候が晴れなのか雨なのか、気温が何度で湿度が何度あるのか、水の温度は何度なのかなど、細かい条件によって水に浸ける時間が変わります。ある時は20秒、ある時は17秒が正しい時間です。 マニュアルというのは機械に管理されているということではなく、自分が作りたいお酒の感覚を追求するために、データというこれまでの経験に基づいて作る、というものです。ですので、ずっと同じことをやっているのではなく、常に改善を重ねています。
―― どの酒蔵もお酒を作る方法は共通しているのでしょうか。
どの酒蔵にも自分達だけのデータがあると思います。先日ある杜氏の方の酒造りの番組があったのですが、米を漬けている時間が藤尾と全く違っていました。杜氏によって酒の作り方は全然違うんだなと改めて思いました。
―― 今回のカップ酒リデザインプロジェクトに封入するのはどのようなお酒なのでしょう。
今回封入するお酒として、純米大吟醸の旭扇を選ばせて頂きました。蔵の象徴である旭日の扇を冠するお酒で、きめ細やかで繊細な吟醸香と、舌をやわらかく包む酒米「山田錦」のなめらかな米の旨みが特徴的です。
―― 数多くあるあさ開のお酒の中から旭扇を選ばれたのはなぜでしょう。
実はこの話を最初に社長に持っていった時に、中途半端なものならやめろと言われました。一つ一つ手仕事で作られているカップなのだから、私たちも最高の酒を出すべきだ、と。迷いましたが、実際にカップを拝見し、デザインのスタイリッシュさを考えて純米大吟醸旭扇にすることに決めました。
―― 今回はプロトタイプということもあり限定個数での生産ですが、今後についてはどのようにお考えですか。
例えばこの商品に人気が出て、欲しい方が多くいらっしゃるとしても、大量生産で作るべきではないと思っています。ハンドメイドでなくなるのであればやめたほうがいい。手仕事でこれだけ繊細なものを作れるというのが日本の良さです。だからこそ、出来上がったものがどんな方々の手元に渡ったら喜んでもらえるか、その点を追求していくことが重要なのではないでしょうか。手仕事されたカップと手仕事で作られたお酒に価値を感じてくださる方に買って頂きたい。そして個人的には海外の方にも楽しんで貰いたい。このプロジェクトを長く続けつつ、いろいろな可能性を広げながら、第二弾、第三弾と継続してやっていきたいと考えています。

1.カップの作り手

カップの制作は、平野光太郎によるカップのデザインをもとに、お二人の ガラス工芸の作り手によって制作が行われました。お一人は、ガラス作家の 吉田晶乃さん。もうお一方は、江戸切子職人の澤口智樹さん。
今回のプロジェクトにご参加された作り手のお二人に、ガラス工芸の分野に 進んだきっかけやものづくりに対する考え、既製品であるカップグラスに手 を加える試みに対しての発見や難しさなどについてお話を頂きました。
吉田 晶乃
ガラス工芸作家

1986年 埼玉県生まれ
2009年 武蔵野美術大学卒業後、彩グラススタジオ軽井沢硝子工房勤務
2012年 フリーランスにて活動開始
埼玉女流工芸展入選
伊丹国際クラフト展入選
2013年 HALI'Sグラススタジオスタッフ
BlueGlassArts吹きガラス教室スタッフ
100人のすくうかたち展 出展
4月6日(土)~5月6日(月・祝)

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澤口 智樹
江戸切子職人

1973年 千葉県生まれ
1997年 東京造形大学卒業
2003年 デザイン事務所、他の切子会社の勤務を経て、有限会社篠崎硝子工芸所入社
2010年 江戸切子新作展にて江戸切子親善大使坂崎賞受賞
2012年 江戸切子新作展にて江東区長賞受賞
2013年 江戸切子若手15人展 出品
    3月16日(土)~4月21日(日)

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作り手インタビュー #1

吉田 晶乃さんガラス工芸作家

―― どのようなきっかけでガラスを使ったものづくりを始めたのですか。
武蔵野美術大学時代にガラスと出会いました。1年次は工芸や絵画などモノづくりの基礎を選び、2年次から専門としてガラスを選択しました。ガラスを選んだのは、素材そのものを変化させやすいところが気に入ったからです。変化、という点においては金属と迷っていましたが、元々は少し白っぽいガラスが加工法によって色々な深さの透明になる、ということが面白くてガラスを選択しました。
―― 本プロジェクトでのグラス制作内容について教えてください。
「どういうカップを作るか」ということに時間をかけました。平野さんから加工法やデザインについて相談があり、一緒に話し合いをしながら作ったという感じです。このような加工法があります、ではこんなものは作れるか、などと言ったやり取りを重ねながら制作していきました。
始めの頃はカップに彩色を施していくことを考えていましたが、ガラスの着彩に使う釉薬には口にすると良くないものが含まれている場合があるので、酒器を作るにあたっては別の方向性を探ることになりました。色々なパターンのカップを作ったのですが、最終的にはグルーチップ(にかわ)を塗り、ガラスを剥がし独特の加える方法による制作を進めることになりました。グルーチップを用いた加工法はガラス工芸にはよくあるものですが、平野さんは面白いと言ってくださって。日常生活で使われているガラス製品には馴染みがないものなのでしょうか、見慣れていない人にとっては面白いものになるのだなというのが、自分にとっても驚きでした。
―― 今後はどのような作品作りをしていきたいと思っていらっしゃいますか。
美大卒業後は軽井沢にある吹きガラスの工房に勤めていたこともあり、当時は吹きガラスをベースとした作品を多く作っていたのですが、今は色々な技法をもっと深く学びたいと思っています。学生時代から今まで、鋳造、吹き、カット、サンドブラストなどガラスの加工法についてひと通り学んできました。本当は一つを極めていくのが、設備や時間を考えると合理的なのですが、自分が作りたいと思う作品は色々な加工法を使ってみたいと考えています。今はカットガラスに興味を持っています。ガラスを上手に削ることによって作品を作ってみたい気持ちが最近は強いですね。これまで自分のしてきた作品作りはガラスを膨らませたり凹ませたりの延長だったのですが、それをもう少し自分の思い通りの形にすることが出来るのがカットの面白さ。削ると白くなり、磨くと透明になるガラスの性質で表現方法が増えることにも興味があります。自分の作品作りをしていく上で一つの技法に固執するのではなく、カットしたり絵付けしたり鋳造したり、そのタイミングで必要だと思うことをどんどん学んでいくことによって、自分が作りたいと思う作品を実現していければと思っています。

作り手インタビュー #2

澤口 智樹さん江戸切子職人

―― どのような経緯で江戸切子のお仕事を行うようになられたのでしょうか。
学生時代にグラフィックデザインを専攻していたこともあり、美大卒業後はデザイン事務所で誌面デザインの仕事をしていました。学んだことを活かすことができる職場でしたが、毎日忙しく働いている中、自分の仕事に対する葛藤があったのも事実です。ある時に「この先ずっとこの仕事を続けられるか」と自分に問いかけてみました。この時あらためて「自分の手で物を作っている実感が欲しい」という自分の気持ちに気が付き、デザイン事務所を辞めました。辞めた後は色々な工芸を見ることから始めました。漆や焼き物、木工とひと通り見て、自分の感性にどれが一番近いかと考えた時に、江戸切子だと思いました。数ある工芸品の中で自分が一番格好いいと思ったのが、江戸切子だったのです。
―― 本プロジェクトで、カップ酒グラスに切子を施してみていかがでしたでしょうか。
基本的な工程は通常の江戸切子を作るのと同じですが、やはり苦労はありました。カップ酒の元となるガラスは大量生産されている工業品なので、外側は滑らかなのですが、硝子の厚みが不均一になっていて内側が少しでこぼこしています。切子も道具としては機械を使いますが、ガラス一つ一つに厚みや色のムラがあるので、硝子を内側から覗きながら削る際の微調整は職人の技術と勘によるところが小さくありません。特に今回のカップの場合厚みのムラによる凹凸で屈折が強く、加工の際には苦労しましたね
―― 切子職人として、今はどのようなことを大事にされていらっしゃいますか。
職人として大事にしているのはスピードです。時間をかければどこまで手を加えることはできますが、仕事としてやっていますので、どの期間でどれだけ作れるかというのが大事だと思っています。スピードを最大限保ちつつ、求められるクオリティを出さないといけない。この点にはまだまだ苦労しています。この仕事の面白いところは、口でどれだけ教えてもらっても、自分の手を動かしてできるようにならないと分からないところですね。「早くやるにはこうやったらいいよ」と教えてもらえるのですが、実際には出来るようになった時初めて「こういうことだったのか」と分かります。身体で覚えるしかないようです。

個人としては、クオリティの高いものを作っていきたいと思っています。もっと言えば他の人が出来ないこと。他の人はやらないぐらい細かいとか、他の人には出来ないぐらい正確とか、そういった点を突き詰めていきたいです。そうして作ったものは100年後先も残っていってほしい。ガラスは壊れやすいものではあるけども、自分が作ったものとしてずっと存在していたら嬉しいですね。
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